理想と優しさの対立
俺はついに違う道を歩むことになった友と決着をつけることになった。俺は祖国を守る近衛兵として、そして友は祖国を滅ぼそうとする革命家として。
「なぜ祖国を裏切った?」
「国王の悪政は目に余る、革命以外に道はない」
と友は答えた。国王は実に優しい方だ、しかしかなり敵も多い、政策で苦しんでいる人も少なくないことは確かだ。
「失敗の先に成功がある」
「国王の失敗は許されない」
「国王は優しい方だ」
「お前にとって国民を苦しめることが優しいというのか?」
「苦しんでも、理想のために努力されている」
「苦しんで死んだら何もかもおしまいだろ?」
と友が訊く。
「人生は何をするかだ、苦しまないように生きるよりも、理想を追いかけて勇敢に生きる方が有意義だ」
と俺は答える。
「それは違う、苦しまないという状態の先に理想の国がある。苦しみがあるうちは決して理想の国ではない」
「理想を目指し苦しみ生きるのか、苦を取り除くために生きるのか、俺は前者だ、苦というのは心の持ち用でどうにでもなるだろ?」
と俺は力強く言う。
「確かに心の持ち用で少しは楽になれるが、根本的な苦を取り除かないことには状況が悪化するだけだ」
「最悪の状況に耐える心を作れば問題なかろう?」
と俺は言う。
「最悪の状況に耐えうる心を持てなっかたらどうするんだ」
「その時は腹を括るしかない」
「苦しみ続ける最悪な状況に耐えながらお前は本当に理想を追い続けることができると思っているのか?」
と友の言葉に力が入る。
「ああ、できるさ、どんなに惨めで虐げられようと勇敢な気持ちを忘れなければ、あらゆる苦しみを進歩の糧として乗り越えることができる」
「苦しみを取り除きつつ、理想を追う方が効率がいいのではないか?」
「苦しみを取り除いている時間などない」
「いや、理想を追う時間があるのなら、人々の苦を取り除く時間だってあるはずさ、まずは苦しんでいる人に優しさを向ける、そしたら自然と苦しんでいる理由がわかってくる、それから理想を追いかけるように苦を取り除くのだ」
「そんな時間などない」
と俺は少しムキになりながら言う。
「苦しんでいる人に優しくできない人がたかが理想で苦しんでいる人を救うことができるのか」
「できる、苦しみは受け入れるもので理想は築くもの」
「いや違う、苦しみは取り除くもので、理想は苦を取り除く指針にすぎない」
「根本の苦しみはそう簡単に取り除くことはできない」
「確かにそうだ、しかし理想を追うように、トライアンドエラーを繰り返しながらいつかきっと苦しみのない国にできる」
俺たちはその後も話し合った。
奴隷勇者
俺は魔王に敗れ、奴隷として地下に潜り銀を掘り出す過酷な労働を強いられている。この地下だけで何百もの人が閉じ込められていて毎日たくさんの脱落者をだす凄惨な状況である。俺自身も何度も挫けそうになったがその都度魔王を打倒するという目標を思い出し踏ん張った。
一日一回の食事の時間になり、いつものように丸いパンが一つ配布される。少なすぎる。でもこの量が魔王軍にとっては都合がいいのだ、奴隷は死にそうなぐらいが反乱せずちょうど良く、食費はできるだけ抑えた方が利益を最大化できる。
俺は奴隷仲間のトムに話し掛ける。
「今日はなんとかノルマを達成できそうだな」
「だな、見せしめの犠牲者は出さずにすみそうだ」
トムはそう言うと泥のような水を飲んだ。俺ら奴隷にはノルマがあり、ノルマを達成できない日には最も成果をあげれなかった人が殺される。それも無惨にオークに食われる。俺には勇気も体力も自信もなくその無惨な現場を傍観することしかできない。
なんで俺はこんなにも弱いのだろうか。オークをぶん殴ることもできない。ぶん殴っても現状は好転するわけではなく、ただ正義を果たせたと自己満足に浸るだけだから殴れないのか。でももう傍観することに耐えられない。
「トム、例の伝説の剣が掘り出されたと言う話だが本当なのか?」
「本当だ、皆んなその伝説の剣でお前が現状を打開してくれること願っている」
「わかった、みんなの無念を晴らすために剣を振おう」
俺はトムから伝説の剣を受け取った。この剣はなぜか土の中に埋まっていて奴隷にめぐりめぐり俺な手に来たようだ。剣はしっかる手入れされていて、汚れもなく、切れ味も良かった。まさに奴隷たちの思いがこの剣にこめらていた。
人間界には伝承があり、土の中に埋まっている剣が魔王を討ち滅ぼすとされている。だから奴隷たちの間で伝説の剣を呼ばれている。俺は試しにグリップを握ってみた、とてつもない力が俺に流れ込むこれなら魔王を討てるかもしれないと思える。
その時突然魔王軍から集合命令が下り、地下の中央広間に俺たちは集められた。
「今日、この奴隷が労働せずに病人を看病していた。時間の無駄だ。こようなことがないように見せしめに食う」
オークはそう言うとその奴隷を食おうとした。俺は今しかないと思い、オークに突っ込んだ。
オークを一刀両断、真っ二つにした。
「俺が魔王を倒す、みんな立ち上がれ」
奴隷の間で凄まじい歓声が響いた。俺は無双してみんなと地下から脱出することに成功した。
恥かき勇者
さっき僧侶の仲間に振られた。もう一年も一緒に旅をしていて、いけるだろうと思ったら無理だった。「タイプじゃないの」と言う言葉をもらった。どういう意味だろう、俺は炎魔法を使えるから炎タイプだとして僧侶は水タイプが好みだったのかな。明日の朝が気まずそうだな。
朝、俺はこの事件を魔法使いの女に打ち明けた。
「で、僧侶は何タイプが好みなんだ?」
「バカね、タイプは顔のことよ」
魔法使いは呆れたように言う。俺は肝心して魔法使いにお礼をいい歩みを進めた。俺らは僧侶、魔法使い、狩人と俺の四人で冒険をしている。王様の依頼で魔王の足止めと討伐を目的としている。正直魔王はめっちゃ強いから今は雑魚の魔物を討伐してその場凌ぎをしている。
狩人の男にも打ち明けた。
「俺、タイプじゃないって」
「一回振られたぐらいで情けないな、百回振られるまで振られたうち入らないんだぜ。魔王の討伐も女心も一緒だぜ、うまくいくまで諦めないことだ」
狩人は熱く語った。俺はまた感心して感謝の言葉を言って歩みを進めた。狩人の弓は百発百中である、魔法使いは凍る魔法に長けている、僧侶は回復魔法が得意で、俺は剣と炎魔法の半端者である。通称火起こしの勇者として重宝されている。
そして気まずい僧侶に話しかけた。
「告白の件だけど……」
俺は恥ずかしくて声が小さくなる。
「勇者くん私はしっかり断りましたよね。まだ何かあるんですか?」
僧侶ななぜか敬語になっていた。原点に立ち返って俺の告白を検討したいのかな。勇気出すぞ勇者だけに。
「やり直そう、こんなにギクシャクしていたら、魔物の討伐どころじゃないよね」
「そうですわね、もう変なこと言わないでよね」
「わかった、それはそれとして俺と付き合ってくれ」
「バカ」
俺は僧侶のピンタをくらった。かなりのダメージだった。心身共に。一体何を間違えたのだろう。僧侶は立ち去ってしまった。魔法使いも狩人も何事というようにぴっくりしていた。
それから気まずい空気の中で、ケンタウロスとの先頭が始まった。ケンタウロスは棍棒で俺に殴りかかる。俺は僧侶のことしか考えられず、踏ん張れずに吹っ飛ばされた。
「うわわわぁぁぁ」
この牛人間め、許さぬ、絶対にぶちどめすと俺は固く誓った。その時僧侶が呪文を唱えた。
「神よ、人々を虐げる魔物に怒りの鉄槌を、ライトニングシャワー!」
凄まじい稲妻がまるでシャワーのようにケンタウロス降り注ぎ、たちまち丸ごけにしてしまった。つ、つよくなった僧侶が。
勘違い勇者
「はははっは、クズども貴様らは皆殺しだ!!」
魔王はそう言うと僕らの冒険者パーティを魔法で蹴散らした。僕だけはなんとか斬撃で相殺したが、3人の仲間はやられたしまった。
「クズはお前だ、僕の仲間に手出してタダで済むと思うなよ」
僕はそう言い、剣を構える。
「フハハッ、俺様に牙を向けた貴様らこそがクズであり、それ以外はクズではない」
「何を言う、お前の征服行為を止めに来た、正義は我にある」
「貴様のような、変わったことをする人間が大勢のものに迷惑をかける。フハハ、自覚したまえ、貴様のせいで不利益を被った全てのものを、貴様の仲間達だって貴様のせいで俺様に殺されたようにな」
「僕はお前という魔王を倒す星に生まれてきたのだ。途中でやめることも逃げ出すこともできない。そして仲間はお前を倒すために集まった、だから僕はお前を倒すまで決して諦めない」
剣と剣が激しくぶつかりある。
「その使命は貴様が勝手に思い込んでいるだけだろ?、俺様が貴様の使命を作ってやってもよいのだぞ」
魔王は不敵に笑み俺にそう訊く。
「魔王を倒すと言う使命は僕にしか果たせないと思っている、そうさ勝手な思い込みだ、だがそれで十分だ」
「そうか、貴様をミンチにしないと俺様の軍門には下りそうにもないな」
魔王はそう言うと重力魔法で僕を押し潰し、闇魔法で追い討ちを加えた。僕は死にかけた。もうなんで生きているのか不思議なぐらいだっだ。全身は真っ赤に染まり、骨は砕け、剣を持つのをやっとだ。
僕は満身創痍で立ち向かう。聖剣に魔力を込め斬撃をお見舞いする。しかし魔王は魔剣で軽々相殺してみせた。魔王と僕の力の差は歴然だった。魔王の全ての攻撃が効果抜群で僕の全ての攻撃は効果今一つであった。
「グハッ」
俺は血を吐き膝をつき、倒れそうになる体を剣で支える。
「その程度で俺様に歯向かうなど、バカで哀れだな、その弱さ、その怠慢、貴様の本質はゴミだ。勘違いクソ野郎だ。そろそろ止めをさしてやる」
魔王はそう言うと魔剣に闇魔法が吸収され、魔剣で規格外の斬撃を放った。
僕はその斬撃をもろに受けて、吹っ飛んで存在自体が消し飛ぶ瞬間だった。
「魔王を倒せるならどうなってもいい、命も、魔力も、どうなってもいい、リミット解除」
俺の魔力、筋力、気力が解き放たれた。俺はとてつもない速さで動き、束の間に何百回もの斬撃を魔王に浴びせて、ありったけの魔力をこめた波動を魔王にぶつけた。
「おのれ、よくもこの俺様を」
魔王は消し飛んだ。僕は力尽きた。
弱肉強食勇者
魔王の斬撃が俺の左腕を肩から切り飛ばした。血を筋力で止めて戦う。この程度では俺は負けない。俺の底力見してやる。
「痩せ我慢はいい、早く降伏したまえ勇者」
魔王はゴミを見るかのように見下しながら言った。魔王は漆黒の鎧を纏い、黒いオーラを放つ魔剣を持っている。
「降伏したら侵略行為をやめるのか?」
聖剣を魔王に向け俺は確認した。
「ハッハハ、バカを言え、降伏してあるのは安らかな死だけだ、俺を煩わせてただで済むわけがなかろう」
「ハッハハ、降伏なんてするわけないだろ、魔王に降伏する勇者がいるかよ、魔王はな、嘘をつき人を騙す狡猾な奴だって相場が決まってんだよ」
俺は左肩から血を垂れ流しながらいった。正直血が足りない筋肉で止血したとはいえ、切られた瞬間に吹き出てしまった。クラクラするぜ。
俺は魔王に斬りかかり、剣と剣がぶつかり火花が飛ぶ。
「その程度か勇者、まるで赤子の力よの」
「魔王、その余裕打ち砕こう」
と俺は言った。しかし魔王の力凄まじくまるで城壁に斬りかかっているようだ。
「なぜ世界を平和にしたいのだ、勇者よ、私に支配された方がより優れたものが群れることなく、劣っているものを力でねじ伏せることができるのだぞ」
「魔王の作る野蛮な弱肉強食よりも、平和な世界で余裕を持ったり、優しい人たちが虐げられることを減らせるから俺は戦うのだ」
「なぁ、勇者よ、この世界は退屈ではないか?私が退屈だと微塵も思わない世界に変えてやろう」
と魔王が言う。強烈な圧で俺を吹っ飛ばした。
「退屈?退屈に決まってるだろ、じゃなきゃ魔王なんかと戦ってはいない、退屈だからこそできることとやらなくていいことがあってそこに優しさが生まれるのだ。虐げることができても、ねじ伏せることができてもやらなくていい世界がいいんだ」
俺はそう言い、対戦を立て直し魔王に突っ込む。剣と剣が何度もぶつかり合う。
「ではお前はなぜ魔物を虐げ、ねじ伏せる?」
「それは大切な人に危害が及んだり、魔物に虐げられる人々を見過ごすことはできないからだ」
「魔物だって人を食わなきゃ腹が減るのだそ、勇者の考えは思いやりが足りなくないか?」
魔王は狡猾にそう言った。
「人を食わせることはできない。人しか食えないのなら魔物は滅ぶしかない。悪いが俺は俺のために人を優先する」
「ハッハハ、ついに本性を見せたな勇者、それでいい、強者が弱者を抹殺するそれがいい」
ドンソン博士の冒険4
「わしはあんずの祖父にして村長のタケだ。ドンソンよ、ゆっくりしていってくれ」
タケさん通称たけじいは白髭を生やした小柄な老人だ。そして僕はあんずの案内でふるつ村に来ている。なんだかんだ1時間ほど歩いた。村は総勢100人程度で現代では考えられないほど団結力があるように思われた。
しばらくゆっくりした後、あんずと獲物狩りをすることになった。ひもと枝でできた原始的な弓と棒に尖った石ついた槍を持ち出かけることになった。獲物は鹿である。こんな道具で捕まえられるわけがないと言ったが、あんずは捕まえられるという。
歩いているとすぐに鹿を発見した。僕は弓で狙うが全く当たらないそれに鹿は警戒心が強くすぐに逃げられてしまった。ところがあんずは発見する次第凄まじ投げやりで鹿を貫いた。
鹿を棒に吊るして運んでいたら、謎の複数の人が接触してきた。
「おまえのしていることは未来を壊す行為だ、抵抗せず死ぬか、抵抗して死ぬか選べ」そいつらは僕に向かって脅してきた。時間を管理している組織がいるとは聞いていたが本当にいるとは。
「なぜ死ななくてはならない?未来を変えることの何が悪いのだ?」
僕はできるだけ穏やかに応対した。
「未来の利益を守るためにおまえには死んでもらう」
「どいつもこいつも金のためか、ああうんざりするよ、金さえもらえればなんでもするお前たちにな、確かに金は大切だ、金がないと生きていくことはできない。だがなんでもできるお前たちが嫌いなんだ。だからお前たちに殺されるわけにはいかない」
「偽善者め、金こそが全て、金があればなんでもできる。金がなければ惨めになるだけだ。おまえの偽善は何も守れない」
そう言うと謎の組織は銃口を向けた。それは現代またはそれ以上の銃だとみられる。
「ああ、目に見えるものは何も守れないかもしれない、けど僕が僕であるために譲れないやさしさがそこにあるんだ。正義でも偽善でもない強いて言うなら僕が僕であるための誇りだ」
「じゃ惨めに死ね!!」
無数の銃弾が飛んでくる、僕は回避して木に身を隠しながら全速力で逃げる。あんずは大丈夫だろうか。巻き込んでしまった。金は悪くない悪いのは悪意の保身だ。ああまた、適当な正義を振りかざしたくさんの人を不幸にしてしまった。
本当の優しさは保身を受け入れることなのかもしれない。弱さを許すことなのかもしれない。多様な性格を尊重することにあるのかもしれない。どれらけそれらに迫害されていようと。優しくすると決めたからには許す他に道はない。
ドンソン博士の冒険3
「どこの部族かしら?」
僕は突然皮の衣を身に纏ったグラマーな女性に話しかけられた。僕は慌てふためき真実を話してしまった。
「未来から来ました、信じてもらえないかもしれませんが事実です、事実は小説よりも奇なり物事は複雑怪奇です」
言葉が通じることに安堵しつつ、もっといい受け答えがなかったのか後悔した。
「あらそう、可笑しな人ね」
「そうです、私はおかしな人です、できればここら辺を案内してくれませんか?」
「いいわよ、未来人さん名前は?私はあんず、よろしくね」
「僕はドンソンと申します、あんずさん、よろしく」
「じゃとりあえずここは私たちのふるつ村とべじた村の境だわ、川を登ればふるつ村、降ればべじた村だわ」
あんずさんは村の方角を指差しながら教えたくれた。ここは実に豊かで果物がなり川には大きな魚が泳ぎ村に囲まれているのも頷けた。
「あんずさんの村に案内してもらうことは可能ですか」
「案内できるけど殺されるかもよ」
「本当ですか!!」
「冗談よ」
あんずさんは笑えない嘘をつき、ビビった僕をみて笑っていた。
「わらえませんよ、あんずさん」
「ドンソンが怯えすぎなのよ、あなたが思っている以上に人は優しいものよ」
「優しいですかね?僕は僕を含め人の身勝手さに疲れています」
「そうね、ドンソン、人は完璧ではないわ、不完全を受け入れることが優しさの交換には必要かもしれないわ、だって自分の不完全を受け入れてくれる人が優しい人でしょ?」
「そうですね、相手の不完全も自分の不完全も受け入れる。仕方がないと、そうなるべき人生だったと、そうならざるおえない人生だっだと、そうせざるおえない人生だっだと」
「うん、人はみんな違うんだよ遺伝子も成育環境も性格も、だから身勝手には理由がある。一概に優しくないと決めつけるのではなく、寛大に受け入れて思いやりを持つことが重要かもね」
「でもあんずさん受け入れ難いですよ」
「受け入れ難いのがドンソンの性格だから受け入れなくてもいいかもしれないわね、いつか受け入れられる人に出会えるかもしれないわ」
「すごく優しい人を助けにこの時代に来たんです」
「そうなんだ、でもどんなに受け入れ難くても思いやりを忘れないことが人間関係を円滑に進めるには必要なことよ、みんな満身創痍だから私たちぐらい優しくないと辛いだけじゃない」
「感情を抑えて情熱と思いやりをもって優しく接することが強さなのかもしれませんね、みんな疲れているから」
僕とあんずはふるつ村を目指し歩みを進めた。