勇者ゼルの冒険10
魔王ゾンビマスターは俺が闇のエネルギーを逃れたことに驚嘆している。
「さすがここまで来ただけのことはある、だが絶望を積み重なるものだ」
また俺は魔王の闇のエネルギーに飲み込まれた。
俺はもう疲れた。魔王を倒すと言う気力はもう残っていない。あるのは楽をしたい、この苦しみから逃れたいという思いだ。無敵を倒すという途方もないことに完全に諦めている。
「そうだ、それでいいお前は勝てない、お前は努力できない、お前はポンコツだ、お前は逃げる、俺が楽をさせてやるからついて来い」
また闇の俺が姿を表し、俺にそう囁く。
「確かに俺はできないことがたくさんある、だが出来ることだってある、できないことばかりを見ても苦しむだけだ。できることで戦うのさ」
「お前に何ができるというのだ?」
「俺は……パージを使える」
「それは魔王に効かなかったじゃないか?」
「使い方を間違っていた。俺はパージを作ることはできない、できるのは心にあるパージをそのまま表出することだけだった」
「それがわかったところで勝てるとは思えないが?」
「いや、勝てるさ、もう飾る必要も、心のパージを制御する必要も無くなった。心のパージは無限なんだ。」
どうやらまた俺は闇のエネルギーを退けたみたいだ。ありのまま表出するのはうまくいくか不安だ。でもそれが一番強いのは確かだ。
「魔王、心のパージをくらえ」
俺の心から出てきたのは苦しみ、不安、望み、期待、絶望だった。それは虎として形になり、魔王を爪で切り裂き食った。
「おのれ、この俺が食われるだと!」
魔王の最後の言葉はこれだった。完全にパージに包まれて消滅したらしい。心をありのまま曝け出すことが大切だったと思う。
人は常に自分ではないすごい自分になろうとすると思う。しかしそんな自分は存在しない。存在するのはできないことがたくさんある自分だ。それを理解して自分らしさを最大限活かせるところに勝機があると思う。
自分らしさを最大限活かしても勝てない敵は出てくる。それでも自分らしさ以外に自分の能力を発揮できることはないと思う。他にあるとしたらそれは本当は存在しないすごい自分だ。
すごい自分は万能だ。なんでもできる。何にでもなれる。苦痛なんて感じない。でもそんなのは存在しない。できないことばかりで、何ににもなれなくて、苦痛を感じはのが本当の自分なんだ。これからは本当の自分を理解してありのまま使うと決めた。